サリドマイドのウソ まだ信じてる科学記者がいるとは ノーベル化学賞2021年10月15日 13:23

サリドマイドのウソ まだ信じてる科学記者がいるとは ノーベル化学賞
 もはや21世紀、令和の時代にまだこんな事を書く記者がいるとは嘆かわしい。
 生物を形作るアミノ酸や糖質などの分子にはL体(左手系)、D体(右手系)の2種類(光学異性体)があり、双方で生理活性が全く違い、酵素などはこれを厳密に見分けている。この光学異性体を人為的に一方だけ作る有機不斉合成は2001年の野依博士のノーベル化学賞受賞で有名になった。
 サリドマイドにも、左手系と右手系がある。催奇形性があるのは左手系だけで、右手系のみを使っていればサリドマイド禍は起きなかったという説が広く流布し、一時は教科書的な書物にも載っていた。有機化学の専門家でも信じていたくらいだ。
 このようなデマが広まった原因は、マウスを使った実験で、右手系では催奇形性がなく、左手系にだけ催奇形性が出たという1本の論文だ。しかしながら、マウスやラットなどの齧歯類はサリドマイドの催奇形性に抵抗性があり、そもそもサリドマイドでは奇形は起きない。実験結果は偶然他の理由で起きた奇形か、捏造の疑いがある。その後、サリドマイドで奇形の起きるウサギなどで追試があったが、左手系のみに奇形が起きるという結果は一度も再現されなかった。
 さて、左手系と右手系で、おそらく生理活性が違う。なぜ、差異が出ないかというと、サリドマイドの左手系と右手系は傘がおちょこになるように、簡単に反転して双方が入れ替わってしまうからだ。右手系だけを分離して、水に溶かして置いておくと、右手系が左手系に変化し、左右半々の混合物(ラセミ体)になってしまう。健常人を使った実験で体内でも速やかに混合物に変わってしまうことが確かめられている。
 つまり、右手系だけを一生懸命不斉合成しても無意味なのだ。だから、今でもサリドマイドは右手系と左手系の混合物が売られている。右手系だけを苦労して合成して売っても被害は防げない。また、再発売された90年代、南米などで被害が出ていた。 有機合成に詳しいあるノーベル賞学者にこの右手と左手を作り分ける不斉合成について質問したとき、「サリドマイドは極めて不適切な例」と言っていた。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://kajiyan.asablo.jp/blog/2021/10/15/9432261/tb