240年前に萌芽 江戸前は鰻の事 大阪寿司は江戸の方言 東京土着民にしか通じない(13) ― 2025年10月04日 17:04
大阪寿司に関するコメントで、天明7年(1787年)に「大阪ずし」があったという情報があった。それは、ある寿司店のサイトのこんな記述。
<「江戸町中喰物重宝記」にはすし屋が21軒出ている。 宇田川町の「亀屋」は大阪ずしが看板だ>
https://www.uotakesushi.com/knowledge/24/
しかし、こういう誰が書いているのか分からない資料は鵜呑みにできない。
最後に参考文献として 「すしの事典」(日比野光敏著 東京堂出版)が載っている。この本を読んでみたが、少なくとも自分が見た版にはそのような記述はない。それどころか、「大阪ずし」の項で、<この名称はさほど古いものではなく、文政のころを超えることはない。江戸の握りずしが生まれる以前は「すし」と言えば箱ずしが当たり前で、それをわざわざ「大阪ずし」と呼ぶこともなかったからである>とまで書いている。
文政年間とは1818年から1830年。このころに江戸で屋台の握り寿司が生まれたとされる。著者の日比野氏は、それ以前に「大阪寿司」はなかったはずというわけだ。実際には、その後も長らく寿司といえば箱寿司など関西発祥のものが江戸でも王道だった。
なので、上のサイトの<宇田川町の「亀屋」は大阪ずしが看板だ>は誰が言ってるのか分からない。
しかし、引用されている江戸時代の文献らしきものがデジタル化されていた。1787年刊の「七十五日(江戸喰物重宝記)」。江戸の飲食店の商標を集めたグルメガイド誌みたいなもの。商標は、真ん中に業種があり、左に屋号と責任者名、右に所在地。そして、上に店の特徴を表す宣伝文句が書いてある。
そして、ページをめくっていくと、「大阪ずし」ではないが、それらしき商標があった。
業種は「御膳御鮓所」。ちょっと高級な寿司屋という感じだ。この時代なので、扱っているのはもちろん関西発祥の寿司しかない。住所は芝宇田川町。責任者は亀屋久右エ門。そして、宣伝文句は「大坂」。
つまり、上のサイトの記述は <宇田川町の寿司店「亀屋」は大阪を喧伝している>と書くべきなのを筆がすべった、もしくは、伝言ゲームで間違えたなどだろう。文章を要約する際、間違いにならないように縮めるという訓練をしていない素人にはよくあることだ。
この「大坂」は何を意味するのだろうか。「本場大阪の味です」という意味なのか。フレンチで「シェフはフランス人です」と宣伝するように「本当の大阪人が作ってます」という意味なのか。
さて、最近、近畿地方で会合があり、関西の人たちと話す機会があった。大阪人の気質として、仮に江戸の日本橋人形町や銀座辺りに移住しても、大阪系東京人1世が自ら「大阪寿司」と名乗ることはないのではないか、とのことだった。短期間とはいえ、京阪神3カ所に住んだことがある自分もこの意見に賛成。
どういう意味で「大坂」と宣伝したのか分からないが、江戸前の握り寿司が定着した後に、その文字を見た東京の土着民が「あそこは大阪寿司だ」と呼ぶようになった他称だったのではないかという気がする。
江戸前とはウナギのこと
ところで、この資料の右ページを見ると「正真 江戸前」の宣伝文句がある。業種は「大蒲焼」。江戸前とは元々ウナギのことだったのだ。当時は、江戸城の目の前が海だから、正真(本物)というのは「本当に江戸城の前で取れたウナギを使ってます」という意味。後に江戸で屋台の握り寿司が生まれ、ウナギから流用して江戸前寿司と呼ぶようになったわけだ。
◆インド名物はインドカレーと言われたような違和感 「大阪寿司」は東京土着民にしか通じない江戸の方言(1)
https://kajiyan.asablo.jp/blog/2025/05/19/9776452
◆大阪のお寿司との違いは? 「大阪寿司」は東京土着民にしか通じない江戸の方言(2)
https://kajiyan.asablo.jp/blog/2025/05/21/9777055
◆いつから使われ出した?「大阪寿司」は東京土着民にしか通じない江戸の方言(3)
https://kajiyan.asablo.jp/blog/2025/05/23/9777235
◆残る老舗3店 「大阪寿司」は東京土着民にしか通じない江戸の方言(4)
https://kajiyan.asablo.jp/blog/2025/05/25/9777405
◆茶巾は東京生まれ 「大阪寿司」は東京土着民にしか通じない江戸の方言(5)
https://kajiyan.asablo.jp/blog/2025/05/26/9778091
◆リトル大阪があった 「大阪寿司」は東京土着民にしか通じない江戸の方言(6)
https://kajiyan.asablo.jp/blog/2025/05/30/9778999
◆ 消えた名店 「大阪寿司」は東京土着民にしか通じない江戸の方言(7)
https://kajiyan.asablo.jp/blog/2025/06/03/9779832
◆確かにあった 「大阪寿司」は東京土着民にしか通じない江戸の方言(8)
https://kajiyan.asablo.jp/blog/2025/07/13/9788348
◆本物の箱寿司は卵焼きが甘かった 「大阪寿司」は東京土着民にしか通じない江戸の方言(9)
https://kajiyan.asablo.jp/blog/2025/08/02/9793037
◆半世紀前から辞書に掲載 「大阪寿司」は東京土着民にしか通じない江戸の方言(10)
https://kajiyan.asablo.jp/blog/2025/08/18/9796765
◆女50歳からの東京 「大阪寿司」は東京土着民にしか通じない江戸の方言(11)
https://kajiyan.asablo.jp/blog/2025/09/06/9801365
◆薩摩揚げも東の方言 「大阪寿司」は東京土着民にしか通じない江戸の方言(12)
https://kajiyan.asablo.jp/blog/2025/09/11/9802502
<「江戸町中喰物重宝記」にはすし屋が21軒出ている。 宇田川町の「亀屋」は大阪ずしが看板だ>
https://www.uotakesushi.com/knowledge/24/
しかし、こういう誰が書いているのか分からない資料は鵜呑みにできない。
最後に参考文献として 「すしの事典」(日比野光敏著 東京堂出版)が載っている。この本を読んでみたが、少なくとも自分が見た版にはそのような記述はない。それどころか、「大阪ずし」の項で、<この名称はさほど古いものではなく、文政のころを超えることはない。江戸の握りずしが生まれる以前は「すし」と言えば箱ずしが当たり前で、それをわざわざ「大阪ずし」と呼ぶこともなかったからである>とまで書いている。
文政年間とは1818年から1830年。このころに江戸で屋台の握り寿司が生まれたとされる。著者の日比野氏は、それ以前に「大阪寿司」はなかったはずというわけだ。実際には、その後も長らく寿司といえば箱寿司など関西発祥のものが江戸でも王道だった。
なので、上のサイトの<宇田川町の「亀屋」は大阪ずしが看板だ>は誰が言ってるのか分からない。
しかし、引用されている江戸時代の文献らしきものがデジタル化されていた。1787年刊の「七十五日(江戸喰物重宝記)」。江戸の飲食店の商標を集めたグルメガイド誌みたいなもの。商標は、真ん中に業種があり、左に屋号と責任者名、右に所在地。そして、上に店の特徴を表す宣伝文句が書いてある。
そして、ページをめくっていくと、「大阪ずし」ではないが、それらしき商標があった。
業種は「御膳御鮓所」。ちょっと高級な寿司屋という感じだ。この時代なので、扱っているのはもちろん関西発祥の寿司しかない。住所は芝宇田川町。責任者は亀屋久右エ門。そして、宣伝文句は「大坂」。
つまり、上のサイトの記述は <宇田川町の寿司店「亀屋」は大阪を喧伝している>と書くべきなのを筆がすべった、もしくは、伝言ゲームで間違えたなどだろう。文章を要約する際、間違いにならないように縮めるという訓練をしていない素人にはよくあることだ。
この「大坂」は何を意味するのだろうか。「本場大阪の味です」という意味なのか。フレンチで「シェフはフランス人です」と宣伝するように「本当の大阪人が作ってます」という意味なのか。
さて、最近、近畿地方で会合があり、関西の人たちと話す機会があった。大阪人の気質として、仮に江戸の日本橋人形町や銀座辺りに移住しても、大阪系東京人1世が自ら「大阪寿司」と名乗ることはないのではないか、とのことだった。短期間とはいえ、京阪神3カ所に住んだことがある自分もこの意見に賛成。
どういう意味で「大坂」と宣伝したのか分からないが、江戸前の握り寿司が定着した後に、その文字を見た東京の土着民が「あそこは大阪寿司だ」と呼ぶようになった他称だったのではないかという気がする。
江戸前とはウナギのこと
ところで、この資料の右ページを見ると「正真 江戸前」の宣伝文句がある。業種は「大蒲焼」。江戸前とは元々ウナギのことだったのだ。当時は、江戸城の目の前が海だから、正真(本物)というのは「本当に江戸城の前で取れたウナギを使ってます」という意味。後に江戸で屋台の握り寿司が生まれ、ウナギから流用して江戸前寿司と呼ぶようになったわけだ。
◆インド名物はインドカレーと言われたような違和感 「大阪寿司」は東京土着民にしか通じない江戸の方言(1)
https://kajiyan.asablo.jp/blog/2025/05/19/9776452
◆大阪のお寿司との違いは? 「大阪寿司」は東京土着民にしか通じない江戸の方言(2)
https://kajiyan.asablo.jp/blog/2025/05/21/9777055
◆いつから使われ出した?「大阪寿司」は東京土着民にしか通じない江戸の方言(3)
https://kajiyan.asablo.jp/blog/2025/05/23/9777235
◆残る老舗3店 「大阪寿司」は東京土着民にしか通じない江戸の方言(4)
https://kajiyan.asablo.jp/blog/2025/05/25/9777405
◆茶巾は東京生まれ 「大阪寿司」は東京土着民にしか通じない江戸の方言(5)
https://kajiyan.asablo.jp/blog/2025/05/26/9778091
◆リトル大阪があった 「大阪寿司」は東京土着民にしか通じない江戸の方言(6)
https://kajiyan.asablo.jp/blog/2025/05/30/9778999
◆ 消えた名店 「大阪寿司」は東京土着民にしか通じない江戸の方言(7)
https://kajiyan.asablo.jp/blog/2025/06/03/9779832
◆確かにあった 「大阪寿司」は東京土着民にしか通じない江戸の方言(8)
https://kajiyan.asablo.jp/blog/2025/07/13/9788348
◆本物の箱寿司は卵焼きが甘かった 「大阪寿司」は東京土着民にしか通じない江戸の方言(9)
https://kajiyan.asablo.jp/blog/2025/08/02/9793037
◆半世紀前から辞書に掲載 「大阪寿司」は東京土着民にしか通じない江戸の方言(10)
https://kajiyan.asablo.jp/blog/2025/08/18/9796765
◆女50歳からの東京 「大阪寿司」は東京土着民にしか通じない江戸の方言(11)
https://kajiyan.asablo.jp/blog/2025/09/06/9801365
◆薩摩揚げも東の方言 「大阪寿司」は東京土着民にしか通じない江戸の方言(12)
https://kajiyan.asablo.jp/blog/2025/09/11/9802502
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