低学歴は死亡率高い 手法はおもしろい2024年03月28日 09:47

低学歴は死亡率高い 手法はおもしろい
 低学歴だと死亡率が高くなり、唯一、女性の乳がんによる死亡率だけ高学歴の方が高い(*)。「差別と格差のない社会」を標榜している新聞では非常に取り上げにくいニュースだ。
でも、身も蓋もない記事にしているところもあるが。
結論はともかく、こういう方法があったのかと感心するアクロバティックな手法だ。
IDが定着している欧米ではこういう疫学調査ができる。どういうプロフィールの人がどういう原因で死んだのかといった情報の利用が容易だからだ。しかし、IDのない日本ではこういうデータを集められない。
そこで、学歴などのプロフィールが分かる国勢調査と死因が分かる人口動態調査という無関係な調査をプロフィールの一致でひもづけるという苦肉の策。生年月日、市区町村、配偶者の年齢などが一致し、かつ、重複する人がいない場合、同一人物とみなすということ。
「マイナンバーでできないんですか?」と質問したら、法改正をしない限り、今の日本の法律ではできないとのこと。

(*)初産年齢が高くなったり、授乳歴がないと乳がんリスクが高まるため。
日本は医療制度の充実などで、欧米に比べ、学歴による死亡率の差が少ない社会であるとか、高学歴の女性はよりいっそう乳がんに気をつけるべきだとか裏返しにすればいけると思う。
(**)学歴ごとの死亡率とは、10万人あたり1年間に何人死ぬかということ。高齢者ほど死亡率が高いので、単純に比較すると、高齢者が多い小卒、中卒は死亡率が高めに偏る。そこで、2015年の日本人口の年齢分布に補正して比べている。

◆「死亡率、中卒は1.4倍」 大卒以上と比較 国立がん研究センター
https://mainichi.jp/articles/20240327/k00/00m/100/206000c

◆国勢調査と人口動態統計の個票データリンケージにより 日本人の教育歴ごとの死因別死亡率を初めて推計
https://www.ncc.go.jp/jp/information/researchtopics/2024/0328/index.html

針小棒大、研究者と記者は共犯2023年08月02日 18:01

針小棒大、研究者と記者は共犯
1面トップを始め各紙まあまあ大きな扱い。「1兆円分は予防可能」なんて見出しは明らかに「予防の徹底で1兆円分の経済損失を節約できる」と誤解させようとしている。実際の節約効果はがんばっても数%だろう(それでも100億節約できたら凄いとも言えるが)。研究者は予算獲得や査定を有利にするため論文の価値を大きく見せたいからわざと誤読させるような発表文を書くし、記者もその辺の欺瞞が分かっていながら記事を大きくして自己評価を高めるためにデスクや整理をだましている共犯だろう。そんな中、紙面にもネットにも1行も出してないのが朝日。それもある意味見識だ。逆に、一見分かりやすそうな医学研究報告をどう受け止めるか、各社の見出しや前文が適切であるかどうかなどを中高生に考えさせる教材として非常に有効だと思う。

◆報道も1兆円分のガンが予防で消えそうに見える見出し
https://kajiyan.asablo.jp/blog/2023/08/01/9606655

報道も1兆円分のガンが予防で消えそうに見える見出し2023年08月01日 23:38

報道も1兆円分のガンが予防で消えそうに見える見出し
●“感染・喫煙などに起因”がんによる経済的負担 1兆円以上https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230801/k10014149751000.html

●がんの経済損失、国内で年2兆8600億円…1兆円は予防できた可能性
https://www.yomiuri.co.jp/medical/20230801-OYT1T50206/

◆「予防可能ながんの経済負担は1兆円」 予防で1兆円節約できるみたいでよくない
https://kajiyan.asablo.jp/blog/2023/08/01/9606559

「予防可能ながんの経済負担は1兆円」 予防で1兆円節約できるみたいでよくない2023年08月01日 18:08

「予防可能ながんの経済負担は1兆円」 予防で1兆円節約できるみたいでよくない
 国立がんセンターが「がんによる経済的負担は約2兆8,597億円で、そのうち、予防可能ながんの負担は約1兆240億円」という論文を発表した。
 こういうと、予防効果で1兆円の経済損失を節約できるかのような印象を受ける。しかし、喫煙すれば必ず肺がんになるわけでなく、喫煙しなければ肺がんにならないわけでもない。予防で発生率を一定程度下げられるだけだ。そこで、「予防の費用対効果、予防対策の予算をいくらかければ結果的に予防可能ながんによる経済損失をいくら減らせるといった計算はできないのか」という質問をした。がん全体のトータルな値としてはWHOの試算があるが、エビデンスとしては弱いとのこと。今回の研究でデータがそろったので、さらにQOLをどう見積もるかなどのデータが集まれば、計算できるのではないかとのこと。将来の研究課題というところだ。
https://clk.nxlk.jp/m/jFNG0X6nD

コロナ[パキロビッドが優れた薬]その訳は2023年02月03日 12:57

コロナ[パキロビッドが優れた薬]その訳は
>>高齢者や持病がある人は、もし新型コロナウイルス感染症にかかったら、抗ウイルス薬、特に「パキロビッド」という飲み薬をもらえないか、医師に聞いてみてください――。東京都で発熱患者などへの訪問診療を続ける医師が、インターネットでこう呼びかけています。
https://mainichi.jp/premier/health/articles/20230106/med/00m/100/018000c

●パキロビッド以外は弱い抗がん剤みたいな薬

 最初に出たメルク(MSD)の飲み薬ラゲブリオ(モルヌピラビル)、2番目のファイザーのパキロビッド(ニルマトレルビル合剤)、点滴薬ベクルリー(レムデシビル)。承認されなかったアビガン。このうち、パキロビッド以外はみな同じ効き方の薬だ。まあ、抗がん剤の親戚のようなもので、RNAの部品(ヌクレオチド)によく似た薬剤。似ているので、ウイルスや細胞が間違えて取り込み、RNAを作れなくなる。そのため、コロナだけでなく、インフルにもエボラにも効き、細胞やがん細胞にも効いて傷害を与える。結局、何にでも効く薬というのは毒性も出てしまうので、毒性を抑えるため効き目はよくない。パキロビッド以外が今一なのはたぶんこのせいだろう。抗インフル薬のタミフルやC型肝炎の特効薬ハーボニーは、20年ぐらいかけて特定の種類のウイルスのみに害を与えるよう選りすぐられたものだ。結局、ウイルスごとに特化した薬でなければダメなのではないかと抗ウイルス薬のプロは言っている。パキロビッドは、たんぱく質分解酵素という酵素にくっついてその機能を妨げる薬。この酵素が分解するたんぱく質はウイルスの種類によって千差万別だ。そのため、酵素自体の形もウイルスの種類によって違うし、人間の細胞の酵素とも形が違う。なので、薬剤の流用は効かず、ウイルスの種類ごとに専用に作る必要がある。新型コロナウイルスに特化した薬剤を探すのは普通なら何年も何十年もかかる。

●なぜこれほど早く作れたのか

 実は、新型コロナウイルスはSARSコロナウイルスと同種で、これら2つのウイルスは、この酵素の薬剤がくっつく場所の構造が全く同じなのだ。そのため、SARSコロナウイルスに効果があることが分かった化合物からSARS治療薬として開発されていた薬剤がそのまま使えた。新型コロナとSARSコロナという特定のウイルスのみに強いダメージを与えられるので、当然、効き目はよくなる。この記事では、臨床試験の結果からパキロビッドが優れているとしているが、それ以前の段階から優れているであろう事が予想できる。東大によるこれらの薬剤のオミクロン変異株に関する効果の試験では、対オミクロンの効果だけを書いていて、それだとラゲブリオ>ベクルリー>パキロビッドかのように見えてしまう。しかし、優れているかどうかは、ウイルスを壊す破壊力そのものではなく、ウイルスに大打撃を与えるのに十分な濃度と細胞を傷つける濃度の比。オミクロン株と細胞をそれぞれ「半殺し」にする濃度の比を比較すると、ラゲブリオは14倍超、ベクルリーは16倍超程度なのに対し、パキロビッドは140倍超。つまり、ラゲブリオなどはウイルスに強烈なダメージを与えるためにウイルス半殺しの10倍ぐらいの濃度にすると細胞も無事では済まない。これに対し、パキロビッドは100倍以上の差があるので、10倍ぐらいは大丈夫ということになる。ただし、パキロビッドはこの仕組みの薬にありがちな欠点があって、体内への吸収が非常に悪く、血中濃度を上げるため大量に飲まなければならず、それもあって肝臓に負担をかけやすいのがネックだ。それで現場から敬遠されるという話もあったが、評価が変わってきたようだ。

ますおかの岡田かよ&ポケモンは使用禁止2022年10月18日 14:55

ますおかの岡田かよ&ポケモンは使用禁止
 くそまじめな科学者のダジャレで一番腹を抱えて笑ったのは「透明になるからスケール」だった。「ますおかの岡田かよ」とツッコミたい。だが、科学ジャーナリストなんて高学歴でお笑い番組なんか見ない人が多いのか、このギャグがまるで通じまない。「スケールって英語の尺度のSCALEでしょう?」などと。今度は「欧米かよ」とツッコミたい。以前、小林克也が「ホノルルをホノルルにあたって」に類する親父ギャグ的なダジャレは英語圏では全く通用しないと言っていた。mouseとmouth、riceとliceなどは全く違う音で、まぎらわしく聞こえるという感性がないからだろう。

●ポケモンはクレームで使用禁止

さて、ポケモン遺伝子がクレームで使えなくなったことを今回初めて知った。任天堂本体なら多めに見たかもしれないが、アメリカの子会社だとこういうことにうるさそうだ。ネイチャーによると、ネイチャーに論文が載った後、「ポケモンががんの原因になることが明らかに」などと揶揄した一般記事が増えたことが不興を買ったようだ。阿形所長のコメントにもある通り、目立てばいいだけでなく、「機能を的確に表していること」もネーミングの条件。発がんのメカニズムと何の関係もないのにこじつけで無理やり人気キャラを利用すると碌なことにならないという教訓だ。

◆「ムサシ」や「カエデ」も 日本語にちなんだ科学発見のネーミング②【生物編】
https://www.asahi.com/edua/article/14744813

◆日本語にちなんだ科学発見のネーミング①【化学編】
https://www.asahi.com/edua/article/14741789

風疹抗体もあった >ファイザーワクチン2回目50日空けて接種 抗体の推移は2022年02月07日 18:27

風疹抗体もあった  >ファイザーワクチン2回目50日空けて接種 抗体の推移は
コロナワクチンの定量検査に行ったついでに、厚労省が無料キャンペーンをしている風疹抗体検査も受けてきた。風疹になった記憶は全くないが、しっかりと抗体があった。風疹ははしかのような典型症状がないのでかかっても気がつかないのはよくあること。

◆ ファイザーワクチン2回目50日空けて接種 抗体の推移は
https://kajiyan.asablo.jp/blog/2022/02/04/9461307

サリドマイドのウソ まだ信じてる科学記者がいるとは ノーベル化学賞2021年10月15日 13:23

サリドマイドのウソ まだ信じてる科学記者がいるとは ノーベル化学賞
 もはや21世紀、令和の時代にまだこんな事を書く記者がいるとは嘆かわしい。
 生物を形作るアミノ酸や糖質などの分子にはL体(左手系)、D体(右手系)の2種類(光学異性体)があり、双方で生理活性が全く違い、酵素などはこれを厳密に見分けている。この光学異性体を人為的に一方だけ作る有機不斉合成は2001年の野依博士のノーベル化学賞受賞で有名になった。
 サリドマイドにも、左手系と右手系がある。催奇形性があるのは左手系だけで、右手系のみを使っていればサリドマイド禍は起きなかったという説が広く流布し、一時は教科書的な書物にも載っていた。有機化学の専門家でも信じていたくらいだ。
 このようなデマが広まった原因は、マウスを使った実験で、右手系では催奇形性がなく、左手系にだけ催奇形性が出たという1本の論文だ。しかしながら、マウスやラットなどの齧歯類はサリドマイドの催奇形性に抵抗性があり、そもそもサリドマイドでは奇形は起きない。実験結果は偶然他の理由で起きた奇形か、捏造の疑いがある。その後、サリドマイドで奇形の起きるウサギなどで追試があったが、左手系のみに奇形が起きるという結果は一度も再現されなかった。
 さて、左手系と右手系で、おそらく生理活性が違う。なぜ、差異が出ないかというと、サリドマイドの左手系と右手系は傘がおちょこになるように、簡単に反転して双方が入れ替わってしまうからだ。右手系だけを分離して、水に溶かして置いておくと、右手系が左手系に変化し、左右半々の混合物(ラセミ体)になってしまう。健常人を使った実験で体内でも速やかに混合物に変わってしまうことが確かめられている。
 つまり、右手系だけを一生懸命不斉合成しても無意味なのだ。だから、今でもサリドマイドは右手系と左手系の混合物が売られている。右手系だけを苦労して合成して売っても被害は防げない。また、再発売された90年代、南米などで被害が出ていた。 有機合成に詳しいあるノーベル賞学者にこの右手と左手を作り分ける不斉合成について質問したとき、「サリドマイドは極めて不適切な例」と言っていた。

ファイザー、モデルナの本命はこちら mRNAでがん治療2021年10月10日 17:02

ファイザー、モデルナの本命はこちら mRNAでがん治療
◆「mRNA」使った治療薬でマウスのがん縮小…ワクチン開発企業が臨床試験を開始
https://www.yomiuri.co.jp/science/20211002-OYT1T50192/

 「インフルでもmRNAワクチンが出て来るのか」と質問される。作るのは簡単だが、インフル用にするなら、また莫大な費用を使って有効性と安全性の試験をしなければならない。使う人がいるかどうかしだいだろう。現行のインフルワクチンは2回接種で6千数百円(ワクチン代2千数百円+医療機関の手数料約2000円×2)。mRNAワクチンの引き渡し価格は40-60ドルとされてるから手数料を入れたら1万円かそれ以上になる。インフルのためにそこまで払う人がいるかどうか。
 ファイザーもモデルナもワクチンの会社ではない。そして、世界的大手ワクチン会社サノフィは新型コロナ用mRNAワクチンの開発を断念したそうだ。ファイザーはかつて次世代コレステロール低下薬で存亡の危機に陥るほど大失敗し、がん治療薬に研究費と人材を集中させているメガファーマ。モデルナは社名が修飾mRNA(modified mRNA)から来てることからも明らかなようにmRNAを薬にするベンチャー企業だ。mRNAワクチンなんてワクチンのランボルギーニ/マクラーレンなどと持てはやされても所詮数千円の世界。ワクチンのように手間とリスクばかりあってあまり儲からない商品より、患者1人年間薬価1000万円級のがん治療薬の分野で一山当てたいだろう。ウイルス用のワクチンなんてパンデミックが終わってしまえば、無用の長物になるかもしれない。慢性白血病などのがん患者でも薬さえ効いていればまあまあ健康で長生きするので10年20年使い続けてくれる。今回、mRNAワクチンで数億人分の人体実験データを手に入れたわけですから、その経験を元に利益の高いがんなどの治療薬を作るのが本当の目標だろう。

マブマブ,舌かみそうなコロナ薬,命名の意味は2021年09月28日 12:55

マブマブ,舌かみそうなコロナ薬の意味は
カシリビマブ、イムデビマブ、ソトロビマブ。何で覚えにくい名前ばかりなのかと質問された。薬には一般名と商品名があって、一般名は主成分の化合物名なので、堅苦しい名前が付く。抗体医薬でも、がん免疫療法のキイトルーダやオプジーボ、乳がん・胃がんなどの治療薬ハーセプチンなど、古代神話の怪物やアニメのヒーローメカみたいな覚えやすい商品名。でも、一般名は、ペムブロリズマブ、ニボルマブ、トラスツズマブ。
 マブ(mab)というのはモノクローナル抗体(monoclonal antibody)の事で、抗体医薬には基本この語尾が付く。
 mabの直前のアルファベットは、その抗体がどの動物由来かを示す。
uは100%人間(human)、zuはほぼ人間に近い(humanized)、xi(キメラ 人とマウスなどが混ざっている)、i(サル)、o(マウス)などと決まっている。
 そして、そのさらに前のアルファベットは抗体医薬の攻撃対象のたんぱく質を表す。最近承認されたコロナ治療薬のようにウイルスのたんぱく質に対する抗体だったらviralのvi。抗腫瘍抗体だったらtumorのtu。
 ハーセプチンのTrastuzumabは、腫瘍(がん細胞)のたんぱく質を攻撃する大部分ヒト化された抗体だと分かる。キイトルーダのPembrolizumabやオプジーボのNivolumabのl、liは免疫に関連するたんぱく質を攻撃するという意味。
 阪大が開発したリウマチ薬で新型コロナウイルス感染の重症化防止にも使われるアクテムラ(Tocilizumab)も同様、免疫に関係するたんぱく質(サイトカインIL6受容体)に対するヒト化された抗体。

◆コロナ軽症用二つ目の治療薬「ソトロビマブ」を特例承認 厚労省
https://digital.asahi.com/articles/ASP9W4DW9P9WULBJ003.html

◆新なコロナ薬 なぜ抗体薬ばかりか
https://kajiyan.asablo.jp/blog/2021/09/07/9420500

◆コロナ"治療薬"なら日本企業でも可能だろうが
https://kajiyan.asablo.jp/blog/2021/09/27/9427442