テレビに出る"専門家"は自信に満ちて平気で適当な事を言う エアバスA380の会見で思った事2019年07月15日 09:38

 テレビに出るコメンテーターなんてデタラメでも憶測でも自信に満ちた態度でその場しのぎにもっともらしい事を言えれば役目を果たせるのだろう。後々記録が残って困った事になる物書きとはだいぶ違う人種のようだ。
 737MAXの事故について書いていてある出来事を思い出した。
昔、エアバスが最新鋭超大型機A380で採用される新技術に関する資料(日本語訳付)を配った。その中に「A380の重心位置を後方に6%移動させた。これにより垂直尾翼の面積を約40平方m縮小し重量の削減につながった」と書いてあった。
 以前に書いたのMD11の話とよく似ている(「737墜落原因は経済性と引き換えに安全をソフトに任せたから」 http://kajiyan.asablo.jp/blog/2019/03/27/9052200)。なのになぜ水平尾翼ではなく、垂直尾翼なのか。常識的には重心位置の影響を受けるのは水平尾翼で、垂直尾翼は関係ないはず。誤訳かと思ったが、原文にもvertical(垂直)とある。
 A380の機体にも詳しいエアバスの極東マーケティングの責任者が日本人向けに会見するというので、「水平(horizontal)尾翼の間違いではないか」と質問してみた。
 答えは、エアバスジャパンの担当者が「ぼくにはとても訳せない」とさじを投げるほど専門用語のオンパレードで、私もよくわからなかった。
 そこに立ち上がったのは、テレビでよく見る、何でも評論家をやっている人物。ワイドショーのコメンテーターだけでなく、バラエティ番組的な出演もする今風の評論家の元祖みたいな人だ。
 英語に堪能なその評論家氏、「そうそう」とうなずきながら、「揚力中心は関係なくて、重心だけを後ろに持ってくると、かかる力が小さくなるんです。てこの原理ですよ」などと、さもすべてを知っているという調子で説明を始めた。
 てこの原理なら、重心が近くに来たらますますかかる力が大きくなりそうな気がするが、「○○では逆に重心を少し前にしたんで、面積を大きくしているんです」などとほかの機体の例まであげて解説するので、そうなのかもしれないかなあ、とその場はとりあえずそれで終わった。
 しかし、その会見に納得がいかなかった航空ジャーナリストが後になってエアバス本社に確認すると、やはり、水平尾翼のまちがいだとわかった。だったら、あの評論家氏の確信に満ちた説明は一体なんだったのか?
 この評論家氏には何度か会ったことがあって、前々から「ちょっとずれたことを言う人だな」とは思っていたが、その時は本気であきれた。
 私がふだん仕事で接するのは、よほど確実なデータの裏付けがあり、後で恥をかく心配がないという自信がない限り断定的な物言いは割けるような人たちばかり。まさか、あんなに意気揚々と自分の知らない事をもっともらしく説明する人がいようとは。テレビって、きっとあういう手合が寄り集まって作っているのだろう。
 慎重に言葉を選んで確実な事しか言わない人はテレビ向きでない。質問されたら、あまり深く考えず、その場の演者たちがなんとなく納得するようなもっともらしい事をとりあえず言う適当な"専門家"をテレビは求めているのだ。

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