mRNAワクチンでは重症化誘発は起きないという常識が崩れた? 日経サイエンスの阪大研究紹介2021年10月27日 18:11

mRNAワクチンで重症化誘発はない常識が崩れた? 日経サイエンスの阪大研究紹介
 日経サイエンス11月号のmRNAワクチン特集。カタリン・カリコ博士らの苦労物語に関してはネイチャーの9月の特集とほとんんど同じで目新しいことは書いてない。阪大の荒瀬教授が5月に発表した研究について詳しく書いていて、少し面白かった。
ワクチンでできる抗体には、感染や発病を防ぐ「中和抗体」と、感染を返って促してしまう「抗体依存性感染増強(ADE)抗体」がある。それ以外にどっちでもない役立たず抗体もあるが。これまでmRNAワクチンやベクターワクチンでは中和抗体しかできないので、抗体が感染を促進するADE現象は起きないとされてきた。しかし、mRNAワクチンでもADE抗体ができるという報告だ。
 ウイルスの表面には鍵のようなたんぱく質が突き出ており、細胞膜の表面に突き出ている鍵穴にその鍵を差し込むことで、細胞に侵入する。ウイルスでは、中和抗体とは「この鍵にくっついて細胞に感染できなくさせる抗体」とされている。コロナウイルスの場合、この鍵は王冠のギザギザ部分のスパイクたんぱく質にある。mRNAワクチンやベクターワクチンはこのスパイクたんぱく質専用の抗体をつくるワクチンだから、中和抗体しかできず、ADE抗体はできないという理屈だった。ここに落とし穴があって、鍵と言っても実際に鍵穴に働くのは先端部分のみ。スパイクたんぱく質を鍵と見なすのは、持ち手の部分やキーホルダーまで一体で鍵としていることになる。荒瀬研で見つけたのは、スパイクたんぱく質の持ち手部分やキーホルダー部分にくっつく抗体は感染を防ぐ効果がなかったり、場合によっては感染を後押ししてしまうことだ。

◆中和抗体の定義に問題

 以前から感じていたのだが、中和抗体の定義がぶれていてあいまいだ。北里柴三郎の伝統に則れば、中和抗体とは、病原体や毒物の機能を失わせ、無害化する抗体。当時は、ウイルスと抗体の具体的な形なんて分かってない。細かい形までわかるようになって、ウイルスでは表面の鍵にくっついて細胞に感染できなくする抗体という定義が生まれたわけだ。これらの中和抗体の役割によるマクロな定義と分子レベルの結合によるミクロな定義が一致していればいいが、当然ずれてくることがある。

◆mRNAワクチンでも感染重症化誘発は起き得るか?

 さて、ワクチン接種による抗体が返って重症化させてしまうADE現象はワクチンによる免疫が中途半端で中和抗体が少ない場合に起きるとされる。mRNAワクチンは免疫を強く刺激するので起きにくいはず。しかし、グループが懸念しているのは、鍵の先端部に変異が起きてしまった場合だ。ワクチンでできる従来株に対する中和抗体は鍵の先端部分に結合できなくなるので、中和抗体はないのと同じ。変異しないキーホルダー部分にくっつくADE抗体は従来株用でも変異株でも同じなので、ワクチン接種でこの変異株の感染が増強される恐れがあるというのだ。一理ある。ただし、鍵先端部の変異は鍵穴との相性も悪くしてしまうことが多いので、感染力が弱い雑魚キャラになる確率が高く、それほど心配することはないと思う。

http://www.biken.osaka-u.ac.jp/achievement/research/2021/154

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