比企谷八幡は犬神明 ネタバレ無し だってまだ読んでないもん オレガイルは平成のウルフガイ・シリーズ2019年12月08日 15:26

 ついに「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」(通称・俺ガイルシリーズ)が完結した。で、これから最終巻を読む前に書いておこうと思った。それにしても、まさか完結が可能とは。まっとうな終わり方は「サヨナラを2回言えばいいだけ」(オフコースの小田さんじゃない方の歌詞)なのだが、そんなの誰も望んでいない。
 この主人公の物語になぜ惹かれるのか。伏線は見事だし、心理描写の面倒さもいい塩加減だし、そりゃよく出来ているが、それだけでは理由にならない。ある時、突然気づいた。比企谷八幡は、子どもの頃夢中になって読んだアダルトウルフガイ・シリーズ(平井和正)の主人公・犬神明なのだ。比企谷のセリフや懊悩苦悩の一つ一つが思い当たる。
 実は、10巻以前にも犬神明のジレンマが脳裏に浮かんだシーンがあった。比企谷が奉仕部での他者との関係性をどう保持するか道しるべを見失い、葉山・リア充グループがどうやっているのか必死で観察しようとあがくシーンだ。
 俺ガイルの読者で平井和正を読んでいる人はほとんどいないだろうから、概要説明。
 アダルトウルフガイの犬神明はマフィアやCIAが絡んでくるような危険な取材をこなすフリーのルポライター。その正体は、太古から続く人狼の一族・犬神と人間の混血だ。ファンタジー系にありがちな設定とか言わないように。それって、マドンナを見てレディ・ガガみたいと言うような物。平井和正から直接間接の強い影響を受け、マネしたりしてるのは今のラノベ作家の方だから。
 で、犬神明の比企谷との共通点

1)主人公は孤独である

 人類社会の中に紛れ込んではいるが、所詮は別種。人間とあえて深く関わろうとはしない。

2)過去、仲間を探し、受け入れてもらおうとしたが、酷い拒絶に遭った

 犬神族は絶滅寸前の種だが、人間との争いは好まず、隠れ里に住んでいる。犬神明はかつて若き日、仲間を求めて、人間には近寄れない犬神の里を見つけ、近づいた過去がある。だが、受け入れられるどころか、人間の血が混じった者を同族とは認めない一族の拒絶に遭い、酷い追い払われ方をした。それは大変なトラウマだが、どこか心の奥底で真の仲間を求める思いは消えていない。

3)人間の群れの残酷さを嫌い、冷めた目で人間社会を見ている

 犬神明は慈悲深きオオカミの一族であることに強い誇りがある。哺乳類(脊椎動物全体?)の中で、同種同士で殺し合うのは人間とネズミだけ。犬神の者は決して同族同士の殺し合いはしないし、他種も無意味に殺したり、傷つけたりしない。戦争や無意味な殺戮を好み、憎しみで他者を殺す人間の性質を犬神明は軽蔑している。

4)庇護を必要としている者を放っておけない

 人間を軽蔑し、人間社会を煩わしい物と思っているのに、弱っている者、困っている者、自分の庇護欲をくすぐる者に手を差し伸べずにいられない。だが、助けようとしても悲惨な結末を迎えることが多く、それがさらなるヒト族への絶望につながる。

5)ある条件下で卑怯なまでに強力な特異能力を発揮する

 満月前後の3日間ほどは不死身、パワーはロボコップ並みになる。どんな傷を受けてもたちまち再生してしまう。聴力、視力、嗅覚なども絶大。

 「人狼であるから人間社会に暮らしていても、決して人類と同化することはない」という構図を、「ボッチだから高校生活を送っていても決してリア充と同化することはない」に置き換えれば、上記の特性や境遇は比企谷の初期値そのものだ。
 しかし、人間社会に関わっていくうちに、犬神明は初期値からずれていく。そして、比企谷と同じくそのずれは己の存在自体を脅かすほどにまで大きくなる。犬神明は気づかざるを得ない。自分には半分人間の血が流れていることを。激しい憎しみで人を傷つけ、復讐の歓喜で他者を殺す人間の本性が自分にもあることを。
 それを知った時、犬神明は不死身なのに死にかける。それほどのアイデンティティーの崩壊を来す。
俺ガイル・アニメ2期のエンディングの歌詞に「孤独という強さ」とあるが、まさに犬神明や比企谷が無敵の超人だったのは孤高だったからこそ。
 いまや比企谷は瀕死。己の掘った落とし穴にはまって身動きが取れなくなっている(13巻まで)。
リア充グループのうわべだけの関係を、掛け替えのない物として守ることに必死なリーダー的存在・葉山。それに対し、自分は彼らとは違う、彼らのようにはならないと、観察者の立場だった比企谷。本当は知っているのに、本質的な問題からあえて目を背け、誰も選ぼうとせず、誰にも選ばれないようにしている葉山の生き方を「ごまかし」と断じる比企谷がいざ自分が当事者になった時、同じまやかしの中に逃げるわけにはいかない。
 生死の境から犬神明は復活する。いま(13巻まで)は瀕死の比企谷もきっと復活することだろう。犬神明の復活後のそれからについてはファンの間では賛否両論なのだが。

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