ノーベル予想 ゲノム編集名目では出ない タイトルを変えてくるのでは2019年10月03日 17:18

 今年もサイエンス系のサイトや新聞などがノーベル賞の予想を載せる季節になった。どこもトップにあげるのはCRISPR Cas9なるゲノム編集技術を開発したエマニュエル・シャルパンティエ(仏)とジェニファー・ダウドナ(米)だ。一時のiPS細胞と同じぐらい確実視されている。今年かどうかは別にしても、数年以内に取るのは間違いない。
 ゲノム編集技術は動植物のねらった遺伝子を簡単に壊す事ができる技術。品種改良や遺伝子治療への応用が進む。
 さて、誰にも賛成してもらえないのだが、数年前から、シャルパンティエ、ダウドナの授賞理由は、「ゲノム編集技術の開発」というタイトルにならないのではないかと言っている。
 なぜなら、ゲノム編集技術には3世代あり、2人が開発したCRISPR Cas9は第3世代。基本的なアイデアは第1世代と同じなのだ。ただ、第1世代の方法はツールを作るのが難しく、特許を持つ専門の企業に頼まなければならなかった。CRISPR Cas9はお手軽で、どこの研究室でも簡単に作って使えるので爆発的に普及した。
 しかし、ノーベル賞は、オリジナルのアイデアを重視する。同じアイデアの技術で、後からできた方がより使いやすいため、世の中に広まったという場合、あまり使われていなくても最初に思いついた研究者に出すのがノーベル賞だ。
 数年前、この問題に頭を悩ませていたのだが、ふと思いついた。授賞対象の業績をゲノム編集にしなければいいのだ。ゲノム編集のツールは、目的の遺伝子がある場所を認識してくっつく装置と、くっついた部分の遺伝子を切断して壊すはさみからできている。3世代でこの仕組みは同じ。違いは目的の遺伝子を認識する装置の部分だ。
 CRISPR Cas9はこの遺伝子を見分ける装置として、細菌が持っているシステムを使う。このシステムを解明に大きく貢献したのもシャルパンティエ、ダウドナの2人なのだ。
 そのシステムとはこうだ。細菌が過去に感染を受けたウイルスの遺伝子を取っておき、同じ遺伝子を持つウイルスが来たら、CRISPR Cas9のシステムが侵入したその遺伝子にくっつき、バラバラに切り刻む。
 これは、はしかに一度かかった人間の体がはしかのウイルスを覚えていて、2度目以降にはしかのウイルスが来るとただちに撃退する「獲得免疫」というシステムと似ている。細菌のような単細胞生物が脊椎動物の獲得免疫のような防御機構を持っていた。これは驚くべき生物学上の発見。それだけでも生理学賞にふさわしい業績だ。
 そこで、シャルパンティエ、ダウドナの業績を「細菌の獲得免疫の解明」もしくは「細菌の防御システムの解明」、あるいは、長いが「細菌の防御システムの解明とゲノム編集への応用」とすれば、第1、第2世代は関係ない。授賞の背景で、これがいかに生物学史に残る大発見かということを解説し、その上で、近年、この発見がゲノム編集技術として応用され、医学や産業にも大きなインパクトを与えていると加えればいい。
 もし、ゲノム編集技術というタイトルで授賞するなら、ゲノム編集技術の父と言われる第1世代の発明者と組み合わせて3人にすればいいという見方もある。だが、第1世代は作り方が難しいだけでなく、権利を持つ企業が研究目的の使用でも法外な作成料を取ったため、利用が進まなかった。そのため、人類への貢献になっていないと評判が悪い。
 細菌の獲得免疫という業績で出すなら、ダニスコという食品会社の研究者と共同授賞ということになるはず。CRIPRの配列を最初に見つけて報告した石野良純・九州大教授に期待する声もあるが、見つけた後、その意味を解明する仕事に関わらなかったのが厳しい。
 生理学賞の結果は7日月曜日、化学賞は9日水曜日に分かる。