ノーベル賞候補も知らなかったので教えてあげた 人間の遺伝子の中のウイルスが防御機構になる2019年01月14日 22:20

 今日、「人間のDNAにウイルス遺伝子 祖先が感染、受け継がれ 発病防ぐ」というのを出している。
 人間のDNA(ゲノム)の中に8%もウイルス由来の遺伝子が紛れ込んでいて、この内在性のウイルス遺伝子が同じウイルスの感染や感染による発病を抑える防御機構になっているという話。
 これ、最近はやりで、毎年ノーベル賞の候補と言われているゲノム編集の技術によく似たコンセプトなのだ。
 ゲノム編集の元になったCRISPR Cas9は、細菌の防御機構。先祖(分裂で増える単細胞生物で親子という概念はあまりないが)が過去に感染したウイルスの遺伝子RNAの断片を保存している。同じウイルスが細胞内に侵入してくると、保存しているのと同じ配列のRNAを認識して、酵素で切り刻むという仕組みだ。この仕組みを明らかにしたシャルパンティエとダウドナたちが、ウイルスのRNA部分を目的の遺伝子の配列に変えれば、目的の遺伝子を壊すゲノム編集に使えると思いついたわけ。

 さて、一昨年、ノーベル賞候補のシャルパンティエとダウドナが来日した時、話を聞きに行ったら、CRISPR Cas9の機構は細菌と古細菌以外の生物では見つかっていないと言っていた。「仕組みは違うが、哺乳類でもウイルスの遺伝子配列を持っていて、ウイルスへの抵抗性になる同じコンセプトの防御機構が存在する」と言ったら、2人は知らなかった。
 「それは抗体のことではないか」というので、「抗体ではない」と。たんぱく質とRNA、DNAの区別も付かないようなド素人と思われたのは心外だったが。
 抗体は対たんぱく質で1代限り。遺伝しない。CRISPR Cas9や内在性ウイルスは子孫に遺伝し、種全体の防御力となる。
 「論文を送る」と約束したが、2人とも半信半疑で「そんな論文が本当にあって見せられるというなら見せてほしいもんだ」(とは言ってないけど)とちょっと小馬鹿にしたような態度だった。後で事務局に総説を送っておいたけど。
 内在性ウイルスと防御機構のことはウイルス学者の間では常識だが、最先端の研究に突っ走っている人ほど自分と少し離れた分野のことは何も知らないものだ。
 シャルパンティエとダウドナがノーベル賞の受賞記念講演で、もしも、内在性ウイルスの防御機構について触れることがあったら、あれは私が教えてやったんだと言ってやろうかと。

コメント

_ 橋口孝司 ― 2019年01月17日 13:41

凄く難しい話でしたが、クスッと笑ってしまいました。
専門家も更に専門的になるので、少し範囲が違うと難しいのでしょうね。

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