タミフルよりアビガンな理由 コロナに効きそうな薬はRNA合成酵素阻害剤2020年02月22日 17:36

タミフルよりアビガンな理由 コロナに効くのは
 クルーズ船客で亡くなった高齢患者2人には抗HIV薬(エイズ治療薬)が使われていたそうだが、どの種類の薬なのか情報が欲しい。おそらくプロテアーゼ阻害剤という種類だろう。中国で効果があるようだと報告されているのが、その種類の抗HIV薬と、インフル薬のタミフルだからだ。
 帯状疱疹(水ぼうそう)、B、C肝炎、エイズ、インフルエンザ。これらの病気用の抗ウイルス薬はほとんどがウイルスの持つ酵素にくっついて、働かなくさせる化合物だ。標的の酵素の種類によって、プロテアーゼ阻害剤、ノイラミニダーゼ阻害剤、RNAポリメラーゼ阻害剤などに分かれる。
 同じ働きをする酵素でも、ウイルスによって、形が違う。だから、抗ウイルス薬はそれぞれのウイルスに特化した物を作るのが原則。だが、これまで、HIV用につくられた逆転写酵素阻害剤がB型肝炎ウイルスに効く、インフル用のアビガンがエボラウイルスに効く、という例が知られている。
 これらの薬が標的にしているのは、いずれもウイルスの遺伝子(DNAやRNA)をつくる酵素だ。このタイプの薬がほかのウイルスにも効きやすいのには理由がある。
 その仕組みは単純。インフルやコロナウイルスの遺伝子であるRNAは、アデニン、グアニン、シトシン、ウラシルという4種類の分子(A、G、C、U)がつながったもの(DNAではUの代わりにチミンになる)。コロナウイルスではこのA、G、C、Uが計約3万個つながっている。このRNAをつくるRNAポリメラーゼの阻害剤がアビガンやC型肝炎ウイルスの特効薬ソホスブビルなどだ。これらの薬はいずれもA、G、T、Uのどれかによく似た化合物。アビガンはAとGに似た化合物。インフルのRNAポリメラーゼがRNAをつくる際、AやGと間違えてアビガンをつないでしまうと、そこでそれ以上つなげなくなり、RNAがちゃんとできない。
 同じ間違いを人間の酵素もするから、初期の抗HIV薬(DNAの部品チミンに似たAZTなど)はシャレにならない副作用があった。そこで、特定のウイルスの酵素は欺されるが、人間の酵素は見向きもしないような特別な形になるよう工夫した改良が加えられ、ソホスブビルのような特効薬が生まれた。
 それに比べると、アビガンはやや大ざっぱだから、RNA主体のウイルス全般に何となく効きやすい。その代わり、低濃度でもピリリと効くというわけにいかない。
 さて、中国で効果があると噂された抗HIV薬・プロテアーゼ阻害剤は、たんぱく質を切る酵素(プロテアーゼ)に作用する。また、タミフルはシアル酸という糖鎖を切る酵素(ノイラミニダーゼ)に作用する。一口にたんぱく質を切ると言っても、たんぱく質は20種類のアミノ酸がつながってできているので、切断箇所のバリエーションが20×20で400通りもある。どんな組み合わせのアミノ酸同士の所で切る酵素かで形が違うのだ。そこにうまくはめ込む化合物を阻害剤としてつくる。HIVのプロテアーゼは人間の酵素が切らないような組み合わせのアミノ酸同士を切り離しているのでそれに似た形の薬をつくった。当然、ウイルスが違えば切り離す組み合わせや形が変わってくる。
 A、G、C、Uのどれかに似てればとりあえず取り込んでしまうというRNAポリメラーゼよりかなりえり好みの激しい酵素といえる。だから、HIV用のプロテアーゼ阻害剤がコロナに効くと言われても、何故効くのか理解できない。タミフルも同様だ。

 まとめると、RNAをつくる酵素は好き嫌いなく何でも飲み込んでしまうので、アビガンはどのウイルスにも効きやすい。それ以外の酵素は偏食が激しいので、ウイルスごとに別な抗ウイルス薬を設計しないと効かないだろうということ。全く違うウイルスなのにたまたま好みが似ていたということはありうるかもしれないが。

厚労相「インフル治療薬 効果あれば使用できる環境整備」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200222/k10012297211000.html

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