塩も体の膜を通る 鱸 豊洲おさかな図鑑-今日も寿司大に行ってきました(10)2025年06月12日 23:07

塩も体の膜を通る 鱸 豊洲おさかな図鑑-今日も寿司大に行ってきました(10)
 昔、スズキの原稿で「海水と接するえらから体内の水をどんどん吸い取られ、塩が入ってくる」と書いたら、生物の膜は水を通すが塩は通さないという「間違った」間違い指摘が結構来た。
さて、寒鰆(カンザワラ)や鱚(シロギス)と並んで、好きな4大寿司ネタの一つがスズキやその幼魚のフッコだ。フッコよりさらに小さいのをセイゴといい、鮬と書く。
 スズキの漁獲量は冬や春の方が多い。だが、産卵期の冬より産卵前の夏の方がおいしいことから夏が旬とされる。
 第1回で紹介したヒラスズキと見た目はそっくりだが、味がかなり違う。ヒラスズキはヒラメをもっと上品にしたような淡泊な白身。スズキはかすかな苦みのような味わいがある。ヒラスズキの方が希少な高級魚だが自分はスズキの方が好きだ。
 この味の違いの原因はたぶん住んでいる場所の違いではないかと思う。ヒラスズキは普通に海に住んでいる海水魚。河口のような淡水と海水が混ざり合う場所と汽水域と言うが、スズキはこの汽水域をウロチョロしている汽水魚。川魚と海水魚両方の性質を持っており、季節によって海水と淡水を行き来している。実は、これはすごいことなのだ。
 血(塩分濃度約0.9%)は水よりも濃いというが、海水(同3.5%)よりは塩分濃度は薄い。スズキなどの魚類の体液も人間の血液と同じ濃さだ。生物の膜の両側に濃い塩水(海水)と薄い塩水(体液)があると、水は薄い方から濃い方へ移動しようとし、塩は逆に濃い方から薄い方へ移動し、濃さが同じになろうとする。
 海の中にいる魚は、「青菜に塩」状態で海水と接するえらから体内の水をどんどん吸い取られ、塩が入ってくる。そこで、海水をがぶがぶ飲んで水を補給する。余分になる塩を体外に捨てる役割をするのが、えらにある塩類細胞だ。海で生まれたスズキの稚魚はこうして生きている。これが海水魚の日常。
 淡水魚は真逆だ。プールや風呂に長時間つかると指がふやけるように、淡水にいると水が体内に入ってくる。そこで、川や湖の魚は常に薄い尿を出している。抜ける塩を補おうと、周りの水にわずかに含まれる塩分を取り込むため、海水中とは逆の塩類細胞を持つようになる。河口付近に集まったスズキの稚魚は数十日かけて塩類細胞が切り替わり、川を上る準備をするのだ。
 このような体の変化をせず、海にとどまる稚魚もいる。変化するか、しないかの決め手はなにか。「川の方が餌が豊富なので、海での餌の量が川を上る体の変化に関係しているのではないか」という。川で夏を過ごしたスズキも、越冬のため川より温かい海に戻る。
 今の魚のほとんどの祖先(ということは我々陸上の脊椎動物の祖先)は、もともと広大な海から一度狭い淡水に追いやられた。その淡水から陸に上がったのが我々の祖先で、魚の方は海に戻って今日の隆盛を迎えた。スズキは先祖の歴史を繰り返しているのかもしれない。
 で、間違った間違い指摘の件。塩水や砂糖水などの水だけを通し、溶けている塩や砂糖などを通さない膜を半透膜という。生物の膜もそのような完全な半透膜だと誤解している人が多い。生物の膜は水を通すが、塩なども通すのだ。水に比べると塩などの方が通りにくいので、半透膜っぽい性質を示すが、塩は通さないという指摘は間違いなのだ。

◆今日の21貫

すずき、エボダイ、本マス、松川カレイ、マダコボイル、ミズダコ生、アイナメ、金目鯛昆布〆、白ミル貝、メカジキ漬け、真鯛、淡路島アジ、ヤリイカ生姜醤油、三陸鰆、勝浦かつお漬け、山口煮アワビ、スミクイウオ、車海老、北海道バフンウニ、鰆醤油、スズキ醤油

◆そのほか
お通し 鹿児島カンパチ
焼きはまぐり
卵焼き、ねぎり中落ち巻き

◆今日の酒
鳳凰美田スパークリング、純米酒秋鹿ひや、大信州超辛口純米吟醸

■のぶっこ 豊洲おさかな図鑑-今日も寿司大に行ってきました(1)
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■寒鰆 ピンク色は赤身白身どっち? 豊洲おさかな図鑑-今日も寿司大に行ってきました(2)
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■豊洲おさかな図鑑-今日も寿司大に行ってきました 番外 曇りSAKE
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■黒鮪 海の可変翼戦闘機 豊洲おさかな図鑑-今日も寿司大に行ってきました(3) スズキ目サバ科マグロ属
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■アイナメ(鮎魚女)飯泥棒みたいな二つ名 豊洲おさかな図鑑-今日も寿司大に行ってきました(4)カサゴ目アイナメ科アイナメ属
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■初鰹は本当は旬ではない 豊洲おさかな図鑑-今日も寿司大に行ってきました(5)
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■だいぶ遠い他人のアヤカリタイ 金目鯛 豊洲おさかな図鑑-今日も寿司大に行ってきました(6)
https://kajiyan.asablo.jp/blog/2025/04/11/9767684
■本鱒 区別に意味がないサケとマス 豊洲おさかな図鑑-今日も寿司大に行ってきました(7)
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■ウッカリカサゴ、ユメカサゴ 仔魚を産むと思われていたのに 豊洲おさかな図鑑-今日も寿司大に行ってきました(8)
https://kajiyan.asablo.jp/blog/2025/05/10/9774518
■鱚 BSS(僕が先に好きだったのに) 白身は釣りたて締めたてはうまくない 豊洲おさかな図鑑-今日も寿司大に行ってきました(9)
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