何とかできる人が多いほど人は何もしなくなる2024年01月15日 18:11

何とかできる人が多いほど人は何もしなくなる
冷淡な傍観者 The unresponsive bystander : why doesn't he help?
 街中で緊急事態が起きた時、それを助けられる立場にいる人が多数いたのに誰も行動しようとしなかった。そのような事例がアメリカで相次ぎ、都会の人間の冷たさ、他者への無関心さとして社会問題化した。
 そこで、検証のために試みられた社会心理学実験をまとめた本だ。

 真の実験目的を隠して被験者を集める。例えば、こんな実験。卓上でできる簡単な作業を頼む。隣の部屋に子どもが2人いてうるさいかもしれないが、気にせずに作業を続けてくださいと言って、実験者は去る。隣の部屋から録音再生で子どもたちの声を流す。子どもが遊んでいて、やがてひどいけんかになり、危機的状況になる。
しかし、被験者たちは隣の部屋に行って介入しようとしない。終了後、なぜ助けなかったのか質問すると、最初はそう思ったが、録音である事を見破ったと言うのだ。
 そこで、今度は「隣には子どもが2人と大人が1人います」と言い、それ以外は全く同じ条件で実験する。すると、今度の被験者たちは誰ひとり録音だと見破ることなく、なぜ隣の大人はけんかを止めないのか批判的な気持ちだけを募らせた。
 このような一連の実験から分かったことは、緊急事態の傍観者たちは無関心なのではなく、非常に強い関心を持って観察しており、自分が行動するべきかどうか強い葛藤とストレスを感じている。
 そして、行動するべきでない理由を探している。「これは事件ではなく、ドラマの撮影なのではないか」などだ。介入すると邪魔になってしまうかもしれない。
 そして、介入できる立場の人間が多いほど、他の人が行動しないということはやはり事件ではないとますます介入するべきでないと思ってしまう。介入が必要なら自分以外の誰かが行動しているはずだと考えるからだ。
 つまり、行動することがストレスとなる場合、人は行動しなくていい、しない方がいい理由を探し、行動できる人間が多いほどより行動しなくなる。外野がお見合い状態になってイージーフライを落とすようなエラーが起きるのだ。
今回の羽田航空事故で、ヒューマンエラーにフェールセーフが利かなかった理由にもつながるような気がする。
もともと理工系でなければ社会心理学をやりたかったのだが、大学1年の時に出会ったこの名著には感慨深いものがある。