感染者の血を使う 新型コロナウイルス治療法に関する話32020年04月02日 01:01

 中国では、新型コロナウイルスに感染して回復した人の血液から上澄みの血清を取って患者に投与するという治療法が使われている。これって、130年前に北里柴三郎がウサギやネズミで開発した方法だ。

◆血清にウイルスや毒を中和する成分

 人は、はしかなどのウイルスにかかって病気になると二度と同じ病気にはかからない。また、王家の跡継ぎなどは幼い頃から少しずつ毒を飲ませることで、毒への抵抗力を付けるという育て方がある。北里博士は、これらの現象は病原体や毒にさらされることで体内にそれらを中和する物質ができるからだと考えた。そして、破傷風の毒素を使ってそれを証明した。
 死なない程度に薄めた破傷風の毒素をウサギに注射する。徐々に濃度を濃くして、注射を繰り返す。すると、ウサギは致死量の毒素を注射しても死ななくなる。死ななくなったウサギの血清を取ってネズミに注射すると、ウサギの血清を注射されたネズミも毒素で死ななくなる。この毒を中和する物質を抗毒素と名付けた。現代の免疫学でいうところの抗体だ。抗毒素は血清の中にあり、血清をほかの動物に移すことで、抗毒素も移り、毒への抵抗力も伝わることを証明したのだ。この方法は蛇毒血清療法として、馬の血で作った血清がハブにかまれた人の治療などに現在でも使われている。

◆効果は期待できるが、ほかのウイルスに感染の危険

 新型コロナウイルスに感染し、回復した人の血清の中には、新型コロナウイルスを中和する抗体が含まれている。これを患者に注射すれば、新型コロナウイルスを倒せるかもしれない(理屈ではうまく行くはずでも臨床試験で調べないと分からないのが生きものや医療の常)。問題は、輸血と同じでウイルスチェックをしっかりやらないとHIVや肝炎ウイルスなどほかの感染症の蔓延につながる可能性があることだ。すべての病原体をチェックできるわけではないからリスクは必ずある。
 武田薬品が回復患者の血液から抗体(ポリクローナル免疫グロブリン)だけを取り出す血漿分画製剤の開発を進めている。こちらの方が血清そのままより安全性が高いが、万全ではない。
 新型コロナウイルスに強く効く抗体単体だけを作り出す方法もあるが、これはオプジーボなどのようにとんでもない高額になるので、実用化はありえない。

抗ウイルス薬なぜ使い回すか 新型コロナウイルス治療法に関する話1
http://kajiyan.asablo.jp/blog/2020/03/23/9227548

ワクチン効果期待も,間に合わない 新型インフル如き迅速投入は無理 新型コロナウイルス治療法に関する話2
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