がんと診断後、1年以内の自殺20倍 本当に大問題なのか 倍率で人をだます方法2018年11月24日 14:37

 「がん患者:診断後自殺リスク、1年以内20倍 サポート充実必要--10万人調査」。ある日、全国紙の夕刊1面トップにこんな記事が載った。社会面にも解説があって対策の必要性を強調していた。
 これは特ダネではない。複数の病院が参加した研究班がその日の朝、班を代表する病院のサイトで発表した研究だ。特ダネでもないのにこの扱いは異例で、ニュースにするべき大問題と判断したということになる。
 約10万人の人を約20年間追跡調査。追跡期間中に561人が自殺。そのうち、がんと診断されていたのは34人。診断後1年以内に自殺したのは13人。その率はがんになっていない人の23.9倍だったという。
  医療関係者は衝撃的な数字と言っていると記事にはある。本当にそうか。
 宝くじのバラと連番の高額当選確率2.5倍と同じで、そもそも自殺するのがどれくらいの割合なのかが書いていない。「科学する心」は23.9倍という数字だけしか書いてないことをうさん臭いと感じる。
 そして、科学する心があれば、書いてなくてもおおよその比率を出せる。20年間で561人ということは1年間で28人ほど。10万人で28人ということは、健康な人が1年間に自殺する比率は0.028%。日本人の成人が約1億人とすれば年間2万8000人で日本人の自殺年間約3万人ともよくあう。
 23.9倍しても0.8%程度。つまり、がんと診断されても1年以内の自殺は1%未満なのだ。
 実は、新聞記事や研究班のサイトには書かれていないが、論文には書かれている重要な数字がある。この研究で期間中にがんと診断された人の人数約1万1000人だ。1年以内に自殺したのは13人だから、0.1%程度なのだ。つまり、健康な人が1年以内に自殺する確率は0.005%程度なのが、がんと診断されると0.1%程度にあがる。
 上の概算よりかなり小さいが、上のは統計的な処理などを一切無視した算数に過ぎないから精度はこんなものだろう。
 1年間に新たにがんと診断されるのは80万人ぐらいだから、自殺するのは800人程度。毎年3万人の自殺者の2%ぐらい。
 人材や予算を投じてまで防がなければならないほどの数だろうか。
 さて、この研究者が一般向けやマスコミ向けに重要な数字を隠して発表しているのは自分の業績を大きく見せ、宣伝してもらうための意図的なものだろう。
 書いている記者はどうなのか。記者もだまされている可能性はあるが、専門記者がこんな単純でよくあるトリックに引っかかるとは信じられない。上司などをだまして、自分の記事を大きくしてもらうために、トリックに気づいていながらわざと黙っていたのではないか。