鍛治壮一の親友に哀悼を2023年05月06日 17:09

鍛治壮一の親友に哀悼を
それまで日本のSFヒーロー番組は永劫回帰。毎回、新しい怪人、怪獣、ロボットなど敵キャラが攻めて来て撃退するの繰り返し。異星人に一度ぼろ負けして絶滅寸前の人類を救うという目的で旅をする。そんな誰も見た事がない画期的なアニメ「宇宙戦艦ヤマト」が始まり、私が「これはすごい」と興奮しているのを見て、鍛治壮一がプロデューサーに取材に行った。それが元で、壮一はおそらく生涯の親友の一人だった松本零士と出会った。極め付けの飛行機マニア・メカマニア同士。意気投合するまで一瞬だったことだろう。各種の戦闘機などに乗りまくっていた壮一が自衛隊に話を付けて戦車やら潜水艦を体験してもらい、それをイラストにするメカゾーンという企画を連載した。その番外編がアマゾン旅行だった。
ある日、萩尾望都さんに松本さんから電話がかかってきた。「イースター島かガラパゴスか。行き先はまだ決まってないが、秘境に行くんですが、いっしょに来ませんか?」。そのころにロンドンで仕事があるというと、「じゃあ、パリ集合で」。パリからコンコルドに乗って、リオデジャネイロを経由し、アマゾンやインカ帝国の首都だったクスコの遺跡、ナスカの地上絵をこの目で見る旅に。漫画家のちばてつややヤマトのメインヒロインの声優麻上洋子も同行した。
 萩尾さんが松本さんと壮一に驚いた事が2つあったという。はるか遠くから飛んでくる飛行機がまだ豆粒のように小さいのに、2人で「あれは○○だ」と機種を言い合っている。どうして分かるのか不思議がっていると、「萩尾さん。飛行機というものはどれ一つとして尾翼の形が同じ物はないんですよ」と見分けられる理由を話す。そして、ペルーなどで土産物などを売っている店に入ると、2人はいつまでたっても出てこない。一度などあまりにも遅いので、2人が店の外に出ると、乗ってきた車がいない。置き去りにして、他の人が先に帰ってしまったのだ。市場でも端から端まで店の前を何回も行ったり来たり。「男性であんなに買い物の長い人は初めて見た」とあきれたそうだ。
 化石を含んだ地層でできたテーブルがあったり、編集者などの待合室に本物のANAのビジネスシートがあったり。戦闘機の照準器が仕事机の下に転がっていたり。各種の資料類も地層のように重なっていて、必要になったら大体の年代で場所が分かるそうだ。
 絵を描くには本物を握ったときの重さや質感が重要だと言っていた。まあ、壮一の部屋も同様に(他人の目にはガラクタにしか見えない)物であふれている。しかし、松本さんは仕事に役に立っていても、壮一の場合、仕事に関係ないただの趣味だ。
 そんな松本さんが理事として設立当初から加わっていたのが、日本宇宙少年団。「未来は青少年の心の中にある」が口癖で、例えば、九州から東京まで1人で出てきたときの夜行列車が999につながっているそうだ。ケガをしたり、おぼれかかったり、そういうすべての経験が今の職業や自分自身に結びついていると。教育は企業の製品開発などと違って、なかなか成果が目に見えない。そういうことで士気が低下してしまう教育関係者もいるのだが、松本さんの講演を聴いて、またがんばろうと勇気づけられることも多かったそうだ。
 しかし、少年団が科技庁出身の理事長の無計画な経営で、用地買収までしたバブル期の宇宙のテーマパーク計画が失敗し、多額の負債で破綻の危機に。経営の経験がない松本さんは迷いながらも子どもたちの笑顔のために理事長を引き受ける。長年いっしょにやってきた職員のリストラもした。「漫画家とアシスタントはきつい締め切りを乗り切る運命共同体。デビューが決まって巣立っていくことはあっても、こちらから辞めさせた経験はないから本当につらかった」と自宅で話を聞いた。自腹で給料を払ってでも残したいと思って残した人が辞めてしまい、それだったら他の人を残せばよかったと泣きたくなるくらい後悔したり。
 長年の作品での宇宙への功績や少年団の立て直しなどが認められ、小惑星にREIJIと名前が付いた。相当に喜んでいた。作品に補給基地として登場させたり、登場人物に「先祖にゆかりの星だ」と言わせたり。
 「絵を描くために世界中のあらゆるところに行って、あらゆる物を見てきたが、地球だけはまだこの目で見たことがない。帰ってこれなくてもいいから宇宙に行きたい」と語っていたそうだ。その夢だけは果たせなかった。講演では、自分が昔立てた計画表では今頃は宇宙に行っていたはずだと。いつか子孫が本当にレイジに行ってほしいという夢が続いている。

◆F15に初めて乗った男 最後の社会部記者・鍛治壮一の書斎に眠る昭和-平成史
https://kajisoichi.hatenablog.com/

https://digital.asahi.com/articles/DA3S15630075.html

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