新コロは何故人を殺す 動物から来たと分かるのが何故かと密接な関係2021年01月20日 13:23

新コロは何故人を殺す 動物から来たと分かるのが何故かと密接な関係
 「ウイルスは宿主が死んだら自分も困るのに何故致死的なウイルスが存在するのか」。昨年、この類いの質問に何度も答えさせられた。ウイルスが人に重い病気を起こす原因は、ウイルスが他の動物から人にやってきたと何故分かるかという事と密接な関係がある。
 さて、人類とチンパンジーとゴリラの共通祖先に感染し、長年、先祖から子孫へ受け継がれてきたウイルスがいるとしよう。ヒトゴリラチンパンジーは、今から約650万年前、人類とチンパンジーの共通祖先と、ゴリラの祖先に分岐した(年代には諸説あり)。その後、約500万年前、ヒトチンパンジーは人類の祖先とチンパンジーの祖先に分岐した。受け継がれるヒトゴリラチンパンジー・ウイルスも、まず、650万年前に分かれて、ゴリラ・ウイルスとヒトチンパンジー・ウイルスとなり、さらに500万年前にヒトチンパンジー・ウイルスが分かれてヒト・ウイルスとチンパンジー・ウイルスになる。人類とチンパンジーの遺伝子(DNA配列)は共通部分が多く、先に分かれたゴリラは違いが大きい。ウイルスも同様に、ヒト・ウイルスとチンパンジー・ウイルスの遺伝子が近く、ゴリラ・ウイルスの遺伝子は違いが大きいはずだ。ところが、予想に反して、ヒト・ウイルスとチンパンジー・ウイルスの違いが大きく、むしろ、ヒト・ウイルスとゴリラ・ウイルスの遺伝子の方が非常によく似ていたとしたら、どうだろうか。ヒト・ウイルスは先祖から代々受け継いだものではなく、人類とチンバンジーが分岐した後の最近になって、ゴリラから人にゴリラ・ウイルスが感染したものだと分かる。
 少し昔の研究だが、京大ウイルス研の速水教授たちがサルのエイズウイルス(SIV)について、上記のような分岐を調べた。
 人にHIV-1とHIIV-2があるように、チンパンジーなどでも感染しているSIVは1種類ではない。人のHIVも含め、5つの群に分かれるSIVの遺伝子の近縁関係が宿主のサル種の近縁関係と一致せず、異なるサル種の間でいろいろなSIVが行き来している事が分かった。そして、SIVは本来の宿主のサルには病気を起こさないが、宿主とは別な種類のサルに感染実験をすると病気を起こした。つまり、先祖代々、長年、宿主と共生してきたウイルスは病気を起こさないが、異種の宿主に引っ越すと凶悪化するという事だ。
 その後の研究で、HIV-1は、アフリカのサルにいたSIVがサルを食べたチンパンジーに感染し、さらにチンパンジーをさばいた人に感染したと考えられている。HIV-2はチンパンジーとは全く別なサルから人間に感染している。これは、SARS、MERS、新型のいずれもコロナウイルスだが、違う動物から感染したため、遺伝子が大きく違うのと同じ。
 HIVも、エボラ、SARS、MERS、新型コロナもみなずっと昔からサルやコウモリと仲良く暮らしてきたのに、人間に引っ越したため、病気を起こしているのだ。しかし、宿主を殺してしまうようなウイルスは生き残れないから、長い目で見ると病原性の高いウイルスは感染を繰り返すうちに必ず弱毒化する。これは実験室で細胞培養しても同様。生ワクチンは基本そうやって作っていた。
 ウイルス感染症の病態は発熱、痛み、下痢、せきなど致死性のものも含め、ほとんどが免疫の過剰反応、異常反応が原因。おそらくだが、淘汰されて残ったウイルスは免疫に目を付けられないようにごまかす術を身につけているのだろう。また、HIVのように、細胞内で急激に増えすぎて、その負荷に耐えられず、細胞が壊れる事がある。増殖の速度を下げる事も重要だ。さらには、細胞にはアポトーシスという自爆装置があり、その起爆スイッチをウイルスが踏むよう罠が仕掛けているので、うっかり踏まないよう注意も必要。免疫の仕組みとは違うが、これも細胞を占拠した敵を道連れに自殺するという一種の生体防御機構だろう。