家族は殺人に手を染めかねない犯罪予備軍 これぞ統計でウソをつく法の本物 ― 2019年06月09日 08:07
以前、大新聞の論説委員は「統計でウソをつく法」の正しい意味が分かってないと書いた。
http://kajiyan.asablo.jp/blog/2019/02/06/9033036
分かっている人もいる。先週、川崎殺傷事件を取り上げた天声人語の冒頭にこんな1節が。
<最近の統計によれば、日本の殺人事件の約5割は、親子間や夫婦間など親族のなかで起きている。そんな事実から、以下のような結論を導けるだろうか。「家族は、殺人に手を染めかねない犯罪予備軍である」 何をばかな、と思われるか。いやいや案外まともな議論かもしれない。たった1人の容疑者のイメージから、犯罪とひきこもりを結び付けることに比べれば>
これが本当の統計でウソをつく方法だ。「日本の殺人事件の約5割は親子間や夫婦間などで起きている」。これは正しい統計の方法によって正しく求められた数値だ。そして、この正しい統計から「家族は殺人に手を染めかねない犯罪予備軍である」というウソに導く。これぞ統計でつくウソの神髄だ。
5割という割合だけを示し、絶対数を隠す。だまし方としては最も古典的。家族持ちの日本人はたぶん1億人ぐらいいるが、家族に殺される日本人はその1億人の10万分の1程度だろう。
わずか1例(2例でも3例でも同じである)の事件によって70万人とされる引きこもり人口全体が危険であるかのような言説へのアイロニー。逆説の手法としては極めて王道、オーソドックスであり、中高生が文章技法のお手本に使う天声人語としてちょうどいいと思う。
ところが、信じがたい経験をした。ある高齢者がこれを読んで「家族は殺人に手を染めかねない犯罪予備軍であるという意見は何事だ」と激高していたのだ。「いやいや、これは意見ではなく、導けるだろうかという問いかけですよ」と説明したら「あなたのような頭のいい人にはそう読めるのかもしれないが、普通の人はこれが筆者の意見だと受け取る」とさらに怒った。いろんな意味でそんな訳ないと思うけど。10代の読解力低下に警鐘が鳴らされているが、日本人の読解力低下は半世紀前から始まっているのでは。
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