共同通信H3失敗騒動で思い出すお役所用語2023年02月18日 16:10

共同通信H3失敗騒動で思い出すお役所用語
 もちろんの一般用語では中止も失敗のうちだが、ロケットの打ち上げ失敗というと普通は取り返しのつかないTotal Loss(全損)を意味するだろう。液体燃料に火が付いちゃっても海の藻屑にならず、安全にやり直しができる技術がすごいなと。燃料が燃えだしてから中止したら無事ではすまないと普通は思うから、共同の一報はつい筆がすべったんじゃないかという気がする。
 さて、この中止か失敗か問題で、「東大理学部がハワイ・マウイ島のハレアカラ山頂に、2mの望遠鏡マグナムをつくる」という記事の騒動を思い出した。
「カジさん、あれは建設じゃないんですよ」。ある日、東大の事務方のトップが泣きそうな声で電話してきた。
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「建設」問題(119ページ)
 ある日のこと、新聞社の記者が話を聞かせてくれと、私(吉井教授)を訪ねてきた。(中略)
 新聞にその記事が載ったのは、96年1月3日の3面。版によっては1面に載った。正月休みということもあって、文部省や大蔵省の官僚をはじめ、いろいろな人たちの目にふれたようである。
 建設中の「すばる」の話だと思って読んでいたら、隣のマウイ島の話である。しかも新しい望遠鏡を「建設する」と書いてある。「建設」というのは、官僚の専門用語として
使われる場合、「土木工事」を行うことを意味するらしく、文部省があわててしまった。「科研費は土木工事に使われる筋合いのものではない。それを承知で東大は許したのか」。大学側は、新聞にそう書かれているが、望遠鏡は科研費が終われば国内に移送する可搬型、と弁明した。
(中略)今度は大蔵省から文部省に、大型のCOE科研費を認めたのはルール違反をやらせるためではないと、厳しい詰問がきた。さらに総務庁からも追い打ち。日本の法律では、在外公館以外で国有財産を外国に出すことは認められていない。それなのに、東大は科研費で外国に施設を「建設する」という。(中略)
 文部省も東大も大変な騒ぎになった。私も正月明けから、事態が沈静化するまでの約2週間というもの、平均睡眠時間が2、3時間という日々が続いた。・・・
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「東京大学マグナム望遠鏡物語」(東大出版会) 吉井譲東大名誉教授著

 私はその事務方に、「お役所の言葉では、建設ではなくてもですね、新聞や一般の人が使う言葉では、大型望遠鏡を山の上に持って行って、組み立てて、土台をつくってその上に設置したら、たとえ、建物を建ててなくても、それは建設と言うんですよ」。
「それはそうかもしれないけど、でも、あれは建設じゃないんです」。
 そもそも、望遠鏡を野ざらしにできないから、周りに壁や屋根のあるドームを「建設」するんですけどね。
 戦前、戦中の日本には報道の自由がなかった。軍部(大本営)が「転進」と発表しても、実際に戦場にいる記者が「撤退」や「敗走」を目撃していたら事実を書くのが国民の知る権利に応えるという報道の使命。だが、撤退や敗走と書いたら逮捕されたり、発行禁止になったりするから書けなかった。今なら憲法で表現の自由が保障されてるから、政府などの公的機関が独自の用語で実態を糊塗しようとしても、報道機関の判断で一般に通用する言葉にしても逮捕されない。福島の原発のタンクに貯まっているのが処理水なのか汚染水なのかとか。処理水と称するものに環境基準をはるかに超える放射性ストロンチウムなどが含まれていることがバレ、今では、ALPS処理水(きれいな処理水)と処理途上水の2つに分けている。

◆東大宇宙センター、ハワイに口径2メートルの望遠鏡建設 来年完成 (1996年01月03日)

◆打ち上げ中止「H3」会見で共同記者の質問に批判相次ぐ ロケットを救った「フェールセーフ」とは
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2302/17/news183.html