天声人語も勘違い? 船内感染はいつ増えたか分からない2020年02月22日 01:38

<当初は米国や国際機関も、乗客を船内に待機させるという日本の方針に理解を示していた。しかし感染者の急増で見方を変える。「状況は変化し、船内で予想以上に感染が広がったのは明らかだ」と世界保健機関は指摘した>
https://digital.asahi.com/articles/DA3S14373738.html

 WHOが間違えている事もあるので、原文らしき物を探すと、2/21日付のワシントンポスト。WHOのライアン・ディレクターは、「船内での感染が予想よりはるかに広まっていた」(clearly there's been more transmission than expected on the ship.)と言っているだけで、日本政府が船内に乗客を閉じ込めて検疫や対策を始めてから感染者が急増しているなどとは言ってない。
 香港人の感染者が乗り込んできたのが1/20。下船が1/25。香港政府が感染判明を発表したのが2/1深夜。検疫を始めたのが2/3。感染者やその接触者は2週間以上、船内で自由に行動していたことになり、その間に感染がかなり広まっている可能性が高い。もちろんその後もゼロに抑える事はできてないだろうが。
 単純なモデルで船内の感染者はいつ増えたのかシナリオを2つ作ってみよう。
最初は1人だった感染者が約1カ月で600人ぐらいになっている。

シナリオ1 対策を取る前も取ってからも感染の速度は変わらず、対策は全く機能していない場合

 1/20に初めの感染者が乗船してから、3日で2倍の勢いで感染者が増え続けているとすると、感染が判明した2/1に16人、検疫が始まった2/4ごろに32人。その後も同じペースで増え続け、2/16に512人なる。
 つまり、検疫が始まった時には20人程度だった感染者が無為無策なまま増え続け、約2週間で20倍以上に増えてしまった。

シナリオ2 対策を取る前は急激だった勢いが、対策で10分の1の増加速度に抑えられた。

 1/20に初めの感染者が乗船してから、1.5日で2倍の勢いで感染者が増え続けているとすると、感染が判明した2/1に256人。その後は対策によって、15日で2倍までペースが落ち、2/16に512人になる。
 つまり、検疫が始まった時にはすでに300人ぐらいまで膨らんでいた感染者の増加を押さえ込んだが、それでも2週間後には2倍になってしまった。

 感染研のデータを見ると、シナリオ2の方が近い気がする。つまり、感染の対策を始めた時点でまだ感染者が少なければ、対策は効果的に機能するが、すでに予想以上に増えてしまっていた場合、どうしたって増加は抑え込めない。もちろん、何もしないよりはずっとマシだが。
 ライアンの言いたい事もそういう事ではないかと。「その時は想定外だった状況に対して、事態が分かってからもっとこうすればよかったと言うのは誰でも簡単にできる」と。
“Obviously, the situation on the ground changed, and clearly there’s been more transmission than expected on the ship,” said Michael Ryan, a WHO executive director for health emergencies. “It’s very easy in retrospect to make judgments on public health decisions made at a certain point.”
https://www.washingtonpost.com/health/coronavirus-diamond-princess-cruise-americans/2020/02/20/b6f54cae-5279-11ea-b119-4faabac6674f_story.html

 対策に関しては仕方なかったとしても、政府・厚労省の広報戦略は大失敗だ。
 政府・厚労省は、まるで、「2/5時点では船内の感染者が10人しかいなかったのに2/19までの2週間で一気に620人に増えた」と全世界に誤解させるような発表の仕方をしてしまった。また、全員検査の方針になかなか切り替えず、なし崩し的に1000人、2000人と検査数を増やしていった。態勢的に無理だったかもしれないが、それでも無理にでも早く全員検査をしておけば待機中に増えたのか、それ以前からすでに蔓延していたのか区別がついた。

厚労省の正気を疑う2020年02月22日 12:34

厚労省、正気ですか?
 最も危険で、相談の必要性が最も高いのが高齢者。高齢者には、スマホを持っていない人、QRコードの意味が理解できない人がたくさんいる。
 「新型コロナウイルス 電話相談窓口のご案内」のどこにも電話番号が載っていない。こんな広告を日本全国に配られる新聞に載せるなんて。
厚労省に電話が集中するのがイヤなので、まず、サイトに誘導し、そこから分散させるという役人のアイデアなのだろうが。そこには高齢者の立場や気持ちになって考えてみるという目線が全くない。

タミフルよりアビガンな理由 コロナに効きそうな薬はRNA合成酵素阻害剤2020年02月22日 17:36

タミフルよりアビガンな理由 コロナに効くのは
 クルーズ船客で亡くなった高齢患者2人には抗HIV薬(エイズ治療薬)が使われていたそうだが、どの種類の薬なのか情報が欲しい。おそらくプロテアーゼ阻害剤という種類だろう。中国で効果があるようだと報告されているのが、その種類の抗HIV薬と、インフル薬のタミフルだからだ。
 帯状疱疹(水ぼうそう)、B、C肝炎、エイズ、インフルエンザ。これらの病気用の抗ウイルス薬はほとんどがウイルスの持つ酵素にくっついて、働かなくさせる化合物だ。標的の酵素の種類によって、プロテアーゼ阻害剤、ノイラミニダーゼ阻害剤、RNAポリメラーゼ阻害剤などに分かれる。
 同じ働きをする酵素でも、ウイルスによって、形が違う。だから、抗ウイルス薬はそれぞれのウイルスに特化した物を作るのが原則。だが、これまで、HIV用につくられた逆転写酵素阻害剤がB型肝炎ウイルスに効く、インフル用のアビガンがエボラウイルスに効く、という例が知られている。
 これらの薬が標的にしているのは、いずれもウイルスの遺伝子(DNAやRNA)をつくる酵素だ。このタイプの薬がほかのウイルスにも効きやすいのには理由がある。
 その仕組みは単純。インフルやコロナウイルスの遺伝子であるRNAは、アデニン、グアニン、シトシン、ウラシルという4種類の分子(A、G、C、U)がつながったもの(DNAではUの代わりにチミンになる)。コロナウイルスではこのA、G、C、Uが計約3万個つながっている。このRNAをつくるRNAポリメラーゼの阻害剤がアビガンやC型肝炎ウイルスの特効薬ソホスブビルなどだ。これらの薬はいずれもA、G、T、Uのどれかによく似た化合物。アビガンはAとGに似た化合物。インフルのRNAポリメラーゼがRNAをつくる際、AやGと間違えてアビガンをつないでしまうと、そこでそれ以上つなげなくなり、RNAがちゃんとできない。
 同じ間違いを人間の酵素もするから、初期の抗HIV薬(DNAの部品チミンに似たAZTなど)はシャレにならない副作用があった。そこで、特定のウイルスの酵素は欺されるが、人間の酵素は見向きもしないような特別な形になるよう工夫した改良が加えられ、ソホスブビルのような特効薬が生まれた。
 それに比べると、アビガンはやや大ざっぱだから、RNA主体のウイルス全般に何となく効きやすい。その代わり、低濃度でもピリリと効くというわけにいかない。
 さて、中国で効果があると噂された抗HIV薬・プロテアーゼ阻害剤は、たんぱく質を切る酵素(プロテアーゼ)に作用する。また、タミフルはシアル酸という糖鎖を切る酵素(ノイラミニダーゼ)に作用する。一口にたんぱく質を切ると言っても、たんぱく質は20種類のアミノ酸がつながってできているので、切断箇所のバリエーションが20×20で400通りもある。どんな組み合わせのアミノ酸同士の所で切る酵素かで形が違うのだ。そこにうまくはめ込む化合物を阻害剤としてつくる。HIVのプロテアーゼは人間の酵素が切らないような組み合わせのアミノ酸同士を切り離しているのでそれに似た形の薬をつくった。当然、ウイルスが違えば切り離す組み合わせや形が変わってくる。
 A、G、C、Uのどれかに似てればとりあえず取り込んでしまうというRNAポリメラーゼよりかなりえり好みの激しい酵素といえる。だから、HIV用のプロテアーゼ阻害剤がコロナに効くと言われても、何故効くのか理解できない。タミフルも同様だ。

 まとめると、RNAをつくる酵素は好き嫌いなく何でも飲み込んでしまうので、アビガンはどのウイルスにも効きやすい。それ以外の酵素は偏食が激しいので、ウイルスごとに別な抗ウイルス薬を設計しないと効かないだろうということ。全く違うウイルスなのにたまたま好みが似ていたということはありうるかもしれないが。

厚労相「インフル治療薬 効果あれば使用できる環境整備」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200222/k10012297211000.html