サリドマイドの悲劇60年の謎ついに明らかに 東京医科大が論文発表2019年10月08日 03:32

 1950年代末、睡眠薬や精神安定剤として発売され、服用した妊娠女性から手足や耳に障害のある子どもが産まれる大薬害を起こしたサリドマイド。なぜ、そのような副作用が起きるのか。それは長らく謎だった。その謎を、ついに、東京医科大の半田宏特任教授やミラノ大のグループが解き明かした。
 端緒は、2010年、当時は東工大の教授だった半田さんらの研究。それまで、サリドマイドは体の中で何に作用しているのかさえ全く分かっていなかった。薬害事件から半世紀、半田さんらは細胞内でサリドマイドの相手となる酵素セレブロン(CRBN)を見つけた。
 セレブロンはたんぱく質の分解に関わる酵素(の部品)だ。簡単に言うと、セレブロンは細胞内のたんぱく質に粗大ゴミのシールを貼る役割を持つ。シールを貼られたたんぱく質はごみ回収で分解される。
 サリドマイドがセレブロンにくっつくことで、シールを貼る相手が変わり、分解に回される対象が変わる。
 今回、サリドマイドがくっついたセレブロンはp63というたんぱく質を分解に回す事がわかった。p63は手足や耳ができるのに重要な役割を果たすことが知られている。グループの伊藤拓水准教授らがゼブラフィッシュという熱帯魚で実験した。普通のゼブラフィッシュは卵の発生段階でサリドマイドを加えると、ひれや耳に障害が起きる。だが、ゼブラフィッシュのp63に遺伝子変異を入れることで、サリドマイドの作用による分解を受けにくくさせると、障害が起きなくなった。
 サリドマイドは1960年代初頭には各国で販売が停止された。その後に多くの薬効がある事が分かり、現在では妊娠女性が誤ってのまないよう厳重な管理下で再発売されている。例えば、自己免疫疾患と呼ばれるベーチェット病などの難病の特効薬だ。また、血液のがんの一種の多発性骨髄腫、糖尿病、がんの悪化に関わる悪液質などにも効く。これらもサリドマイドがセレブロンにくっつくことで病気に関係するたんぱく質が分解されると考えられている。多発性骨髄腫ではがんの増殖に関わる「イカロス」というたんぱく質が分解されることで効く事をやはり半田さんのグループが突き止めた。
 サリドマイドと似た構造でより効果の強い新薬が発売されているが、いずれも動物実験で副作用が出たため、サリドマイドと同じく、厳しい管理下で使われている。
 サリドマイドを改良した新規化合物で、p63への作用を抑えて、薬効のみが働くようにすれば、副作用を起こさない新薬をつくれるかもしれない。また、セレブロンとサリドマイドの関係を応用し、別な病気に関わる特定のたんぱく質を分解することで新たな治療法に結びつける研究も進む。

元論文はこちら↓

https://www.nature.com/articles/s41589-019-0366-7

https://www.titech.ac.jp/news/2019/045379.html

https://www.titech.ac.jp/english/news/2019/045375.html

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