737墜落原因は経済性と引き換えに安全をソフトに任せたから2019年03月27日 18:59

《「737MAX」連続墜落の原因は最新システム「MCAS」が有力》という雑誌の記事があったので期待して読んだがガッカリ。
 737MAXの機体に、その前の737NGシリーズと比べて、どのような目的でどのような設計変更がなされたのか、それによってなぜMCASという新システムが必要になったのかといった知りたい情報が載っていない。

 また、「安全のために導入したはずの新システムがあだとなった可能性が高いというわけだ」という結論めいたものは的外れというか見方として底が浅い。

 タイトルに引きずられての期待はずれだが、この記事が特にどうというわけではなく、MCASについて知りたいことが書いてある報道はそもそもあまりない。事故調の報告が出るまで待ってられないので、自分で原因を推測することにした。

●参考になるのはMD11の事故

 MCASがなぜ導入されたのか、どういうシステムなのか、情報が少ない。だが、非常に参考になるのが、JALの客室乗務員が亡くなったMD11の機体乱高下事故だ。
 MD11も737MAXも機首の上げ下げ(機体の前と後ろどちらが高い位置に来るか)の制御が事故に絡んでいる。機首の上げ下げは、水平尾翼の後ろ側にある舵(エレベイター=昇降舵)の上げ下げでする。水平尾翼がへの字型や逆への字型になり、前方から受ける風の力で機体の上下方向の角度を変えるわけだ。
 MD11では機体の重心を少し後ろにずらした。するとシーソーで前の方の人が中心に近づいたようなもので、後ろの人は軽くなっても釣り合う。この場合の後ろの人とは水平尾翼。水平尾翼がつくるべき下向きの力が軽くてもすむので、水平尾翼の面積を減らせる。
 狙い通り燃費はよくなったが、その代わり、機体の上下方向のバランスが不安定になった。そこで、ソフトを使った制御で微妙なバランスを取るシステムが導入された。
 しかし、このシステムが稼働中に急にはずれると機体の姿勢はひどく不安定になる。JAL機はこのシステムがはずれてしまい、それこそシーソーのように上下に激しく揺れ、客室乗務員が体を打ち付けられて、ケガをし、その後に亡くなった。
 737MAXの設計やシステムはこれとは違うだろうが、MAXの前の737NGシリーズに比べ、エンジンの位置が前になっているとのことなので、やはり、重心の移動によって縦方向のバランスに変化が生じたとみられる。
 そのため、離陸上昇中に機首が必要以上に上向きになる恐れがあるので、機首の上げすぎを感知して自動的に修正するシステムMCASを導入した。ところが、センサーの不具合で、MCASが上がってもいない機首を下げようとするので、離陸を続けようとするパイロットとけんかになってしまった。

 ●ライバルに水をあけられた焦りも似ている

 製造メーカーの置かれた状況も当時のMD11と似ている。当時、過去にDCシリーズなど旅客機のベストセラー機を生み出した米マグダネルダグラス社は、ボーイングや後発のエアバス社との競争で苦戦を強いられていた。そんな中、様々な工夫で性能を上げたMD11を投入したわけだ。
 しかし、その工夫は上記のようにアクロバティック。戦闘機では、運動性を高めるため、わざと機体の安定性を悪くするという設計がある。民間旅客機の場合、安定であることが望ましい。安定性を犠牲にしてまで燃費をよくするのは、ライバル機との性能差を無理に大きくしようとした焦りの産物。その後、マグダネルダグラスはボーイングに吸収される。
 ジャンボジェットやA380のような超大型機が廃れる中、737シリーズなどの中型機は民間航空機の主戦場だ。この主戦場で一騎打ちを挑まれているエアバスに新鋭のA320neoで後れを取ったボーイングが大急ぎで大きく性能を向上させて投入した。それが737MAXだった。

 燃費向上のために機体に設計変更を加えた結果、機体の縦方向の安定性が下がり、パイロットの負担が増すので、機体の角度を監視して自動調整するシステムを導入した。つまり、経済性を追求をしたために機体の安定性が下がり、それによって生じる安全上の問題の対策をソフトに任せたが、システムのセンサーに欠陥があり、トラブルになったということだ。
 「安全のために導入した」と「経済性追求のために生じた安全上の問題を補うために導入した」は事故の原因や背景への理解という面で、かなり違う。