本庶さん受賞はオプジーボのおかげにも大反対 ノーベル賞はやはりオリジナリティー重視だ2018年12月10日 22:40

 今日はノーベルの命日で、ノーベル賞の授賞式と晩餐会が開かれる。
 前回、今年のノーベル生理医学賞は本来ならアリソン単独で本庶さんは受賞できなかったはずという見方が医療のプロの間にあった事を取り上げた。欧米での予想がそうなるのはまだ分かるが、日本の医療関係者までそう見ていたのはどうかと思う。
 アリソン単独になるはずの理由として、最近はやりのがん免疫療法の元になっているアイデアはアリソンが考えた物で、本庶さんのオプジーボは二番煎じでオリジナリティーがないという意見がある。
 それにも関わらず共同受賞になったのは、オリジナリティーではアリソンだが、薬としてよく売れているのは本庶さんのオプジーボの方だからという見方もある。

 これらの見方や意見について、私はずっと異議を唱えている。

 選考委員の1人、ペールマン教授はNHKのインタビューで「本庶さんらは発見したことをがん治療薬にまで結びつけ、臨床で大きな効果を挙げている点を特に評価した」と言っている。もちろん医療で命を救っている事が重要だ。だが、二番煎じだが患者に効いているのはオプジーボだからオリジナリティーがなくても共同受賞できたというのは言い過ぎだ。ノーベル委員会はオプジーボ開発の元になった本庶さんのPD-1発見のオリジナリティーを高く評価している。

 アリソンのアイデアはこうだ。がんを倒す免疫細胞の表面にあるCTLA-4という以前から知られていたたんぱく質は免疫の活発化を止めるブレーキになっている。このブレーキの仕組みを免疫チェックポイントという。そのブレーキを働かなくする免疫チェックポイント阻害剤を使えば、がんを倒せるのではないか。
 で、実際にマウスで実験し、うまく行ったので、人間の薬が開発された。

 本庶さんの研究室が見つけたPD-1も免疫チェックポイント。同じようなブレーキの仕組みと報道されている。だが、素人の目から見ると、これらを「同じような」というのは大ざっぱ過ぎるんじゃないかと思う。
 アリソンのCTLA-4は免疫細胞と免疫細胞の間の連絡に使われている。その情報伝達で免疫を活性化する細胞や抑制する細胞に働きかける。アリソンの薬はCTLA-4に作用する事で、免疫細胞を活性化させる効果や、免疫を抑制する細胞を減らす効果があるらしい。実はまだよくわかってないようだ。
 本庶さんのPD-1は同じく免疫細胞同士の連絡にも使われている。それとは別に、がん細胞の表面にPD-1にくっつくたんぱく質があって、それがPD-1にくっつくとブレーキのスイッチが入って、免疫細胞ががん細胞を攻撃しなくなる。がん細胞が悪用しているユニークなシステムで、このPD-1にがん細胞が作用できなくするオプジーボはより直接的ながん攻撃手段なのだ。
 もし、本庶さんの研究室が、アリソンの論文を見てから、同じような物はないかと探してPD-1を見つけたなら、確かにオリジナリティーはアリソンにある。だが、ノーベル賞サイトの資料にもはっきり書いてある通り、本庶研がPD-1を見つけて発表したのはアリソンの実験の論文が出るより数年先なのだ。PD-1が何をしているのかは最初は分からなかったが、そのブレーキとしての役割もアリソンと関係なく突き止めている。
 PD-1の仕組みをがん治療薬に応用しようとしたのは、アリソンより後だが、ノーベルの発表ではPD-1を独立に先に見つけた事、アリソンとは仕組みが違う事を評価している。
 「本来ならアリソンのアイデアや発見にオリジナルティーがあるが、アリソンの薬はあまり成功していないのに比べ、本庶さんのオプジーボは成功して患者によく使われている。よく売れている。だから共同受賞にした」などとはノーベルの発表のどこにも書かれていない。

 選考委員長のベデル教授は新聞のインタビューで本庶さんのPD-1を「基礎研究が予想していなかった臨床医療でのインパクトにつながるという美しい事例だ」と誉めている。

 プロの間にアリソンの二番煎じという見方があったのは確かだが、ノーベル賞委員会はそのような風評に惑わされず、独自の深い調査で本庶さんのオリジナリティーを認定したという事ではないか。選考の内容は50年立たないと公開されないので、真相はそれまでわからないが。
 医療のプロは科学や研究のプロであって、ノーベル賞のプロではない。なぜ授賞したのか。なぜ授賞しないのか。ノーベル賞に関する事はノーベル賞研究のプロに聞くべきじゃないかと思う。